京都地方裁判所 平成4年(ワ)1748号 判決 1996年11月28日
原告
三栄商事株式会社
右代表者代表取締役
猪原正太郎
右訴訟代理人弁護士
杉島勇
同
杉島元
同
木内哲郎
同
白浜徹朗
被告
野村證券株式会社
右代表者代表取締役
酒巻英雄
右訴訟代理人弁護士
辰野久夫
右訴訟復代理人弁護士
藤井司
主文
一 被告は、原告に対し、金二七〇一万九一七五円及びこれに対する平成四年八月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求
一 第一次請求
被告は、原告に対し、二億円及びこれに対する平成六年二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第二次請求
被告は、原告に対し、一億三三五三万七〇四一円及びこれに対する平成四年八月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 事案の要旨
本件は、被告の外務員の勧誘を受け、昭和六二年六月一九日から平成三年四月までの間に新株引受権証券(ワラント)を合計一億九八三〇万九七九七円で購入したが、その後の価格の推移が思わしくなく売却損を被り、あるいは行使期間を経過して権利が消滅したために損失を被った原告が、被告に対し、被告の外務員の勧誘行為にはワラントが行使期間を過ぎると無価値になることを説明しなかったなどの各種の違法性があり、また被告が一任勘定取引による過当な回転売買を行ったと主張して、債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づいて、右損失について損害賠償を求めるものである。
二 争いのない事実等
1 当事者等
(一) 原告は、各国の織物及び繊維製品の製造加工並びに販売を目的とする株式会社であり、原告における経理責任者は経理部長の栗栖義輝(以下「栗栖」という)であり、同人が被告との証券取引の担当者となっていた。
(二) 被告は、証券業を営む株式会社であり、京都市下京区四条通柳馬場西入ル立売中之町九〇番地の二に京都支店がある。
(三) 中村広太郎(以下「中村」という)及び高橋正利(以下「高橋」という)は、いずれも被告の従業員で京都支店に勤務していたものであり、昭和六〇年から昭和六一年一一月までは中村が、それ以降は高橋が原告を担当していた。
2 ワラント
ワラントとは、一定期間(権利行使期間)内に、一定価格(権利行使価格)で一定量の新株式を購入できる権利を有する証券のことをいい、このワラントを付して発行される社債である新株引受権付社債(ワラント債)から社債部分が切り離されて取引の対象とされているものである。日本国内で流通しているワラントの大部分は、外国市場において発行後引き受けがなされて流通している日本企業のワラント(外国新株引受権証券)を日本国内に持ち込んだものである。
3 本件取引に至る経過
(一) 原・被告間の有価証券取引は、昭和五九年秋ころ、中村が原告を外交訪問したことが契機となり、原告が、同六〇年一月二九日に日本パーカライジングの第一回転換社債及び富士通の第三回転換社債をそれぞれ一〇〇万円、同月三〇日に中期国債ファンドを一億円で買い付けたことによって始まった。以後、原告は、被告を通じて多数の有価証券取引を行うようになった。その全取引は、別紙「売買取引計算書」(乙六、以下「計算書」といい、個々の取引を示すときは、「計算書のNo.1」を「計算書①」のように示す)のとおりである。
(二) 原告は、昭和六〇年四月九日に、同和鉱業の株式一〇万株を信用取引によって買付け(計算書②③)、同月一八日(計算書②)及び一九日(計算書③)の売付けによって合計一八八万八八五三円の利益を得たものの、栗栖が信用取引をすることを好まなかったため、被告との取引中信用取引は右取引だけであった。
4 本件取引
原告は、高橋の勧誘により、昭和六二年六月一九日に大和ハウスのワラント一〇ワラントを二四〇万四〇五〇円で購入(計算書⑨)したのを初めとして、平成三年四月までの間に計算書記載のとおり合計一九一回のワラント取引を行っているが、そのうち原告が本訴で請求している損害発生の原因として主張しているワラント取引は、別紙「本件ワラント取引一覧表」記載の一八回分である(以下、右別紙を「一覧表」といい、この一八回の取引を「本件取引」という。なお、この取引は、計算書に★印を付したものである)。
三 争点及び当事者の主張
本件における争点は、第一に、高橋の勧誘行為に説明義務違反、適合性原則違反等の違法行為があったか否か、第二に、被告が一任勘定取引により過当に回転売買を行ったか否か、第三に、賠償すべき損害の額はいかほどかの三点であり、これらの点についての当事者双方の主張の要旨は以下のとおりである。
1 原告の主張
(一) 本件取引勧誘の経過
前記のとおり昭和六二年六月に、原告はワラントを初めて購入したが、購入するに先立ち、栗栖は高橋から「ワラントはどうですか」という勧誘を受けた。
その際、高橋が栗栖に対してしたワラントについての説明は、新株引受権であり、外貨建てであるという程度であった。栗栖は「外貨建て」という点が気になったので、高橋に対し外国為替の影響の有無を尋ねたところ、影響はないという返事であった。栗栖は、高橋に対し外国為替の影響がない理由についても尋ね、説明を受けたが、内容が難解であったために理解することはできなかった。
しかし、高橋からは、ワラントの商品性について、パリティ、プレミアムなどの用語、ハイリスク・ハイリターンの商品であること、行使期間が経過すると無価値になる等の説明は全くなかった。
(二) ワラントの危険性
ワラントの商品としての主な特徴は次のとおりであるが、その性格、特徴が難解かつ複雑で極めて危険性が高く、株式、債券等の一般の有価証券とは著しく異なる商品である。
(1) 価格変動の大きさ
ワラントの価格は、株価に連動するだけでなく、プレミアムがその一部を構成しているため、全体として株価変動の影響は受けるが、その変動率は株価の変動率に比べて大きくなる傾向がある。
(2) 権利行使期間の存在
権利行使期間を経過すると無価値(紙屑同然)となる。
(3) 為替リスクの存在
外貨建ワラントは為替変動のリスクがある。
(4) 価格形成の不透明性
顧客と証券会社との店頭(相対)取引であり市場集中義務がなく、公的市場がないので、価格変動が不明瞭である。
(5) 価格情報の不足
価格に関する情報は、特定銘柄の業者間の前日気配値が一部の専門紙にポイントにて発表されているにすぎない。
(三) 適合性原則違反(債務不履行、不法行為)
適合性の原則とは、証券会社が顧客の利益を軽視して過当な勧誘を行うことを防止するため、顧客の意向、財産状態及び投資経験等に適合した投資勧誘を行うことを要求するものである。
本件では、外貨建ワラントの取引が行われているが、外貨建ワラント取引は強度の投機性と複雑な仕組みや問題点を有する取引であることから、原告のような一般投資家への適合性は容易には認め難い取引である。すなわち、原告の資金は受取手形を銀行で割り引いて作った資金であって法人資産であるから、担保価値がなく、かつ、将来無価値になるかもしれない商品であるワラントを取り引きする意向はなかったものである。
したがって、原告の意向に反する取引を勧誘することは、適合性の原則に違反する。
(四) 説明義務違反(債務不履行、不法行為)
ワラントは、前記のとおり複雑難解な商品であり、かつ危険性の極めて高いものであるから、証券会社が投資家にワラント販売の勧誘を行う場合には、少なくとも事前に投資者に対し前記ワラントの特徴について説明する義務があるというべきである。
しかし、前記のとおり高橋は大和ハウスワラントを原告に勧誘した際に、ハイリスク・ハイリターンの商品であること、権利行使期間のある商品であることといった投資判断を決定する上でもっとも基本的なワラントの性格ないし特徴を説明していないから、高橋の右勧誘行為は説明義務に違反する違法なものである。
(五) 過当回転売買(債務不履行)
(1) 証券会社と投資者との取引において、証券会社は証券取引の専門家として、豊富な知識及び経験を有し、かつ莫大な情報量を有している。したがって、右取引において、証券会社は投資者の利益に合致した投資推奨を行う義務があり、手数料稼ぎを目的とした過当売買は禁止される。
(2) ところで、前記のとおり、原告と被告との有価証券取引は昭和六〇年一月二九日から開始され(そのうち、ワラント取引は、昭和六二年六月一九日から開始されている)、以後約六年半の間に約七四七回の取引が行われている。右取引では、原告は約二億円の資金運用を被告に依頼し、これを現物株式取引だけでなく、信用取引(一回のみ)、投資信託、国債、転換社債、外国ワラント、国内ワラント(一回のみ)、外国株式等多種多様な商品取引に使用していた。
ところが、平成元年になると、原・被告間の取引の内容は、ほぼワラント取引のみとなった。平成元年のワラント取引の内容をみると、決済された延べ一三六銘柄のうち、保有期間一五日以下の銘柄数が一〇〇銘柄(約73.5%)、保有期間一六日以上三〇日以下が一三銘柄、同三一日以上六〇日以下が九銘柄、同六一日以上は一四銘柄となっている。
右のような取引状況は、原告と被告との間に一任勘定取引があることを窺わせるものであることろ、一任勘定取引においては、証券会社が顧客の口座を支配して、自らの手数料収入の増大を図るおそれが増大する。
そして、ワラント取引によって被告が受ける利益は、株式のような委託販売による手数料収入ではなく、仕入値と売値との差額であるところ、被告が原告との全ワラント取引で得た利益は、少なくとも一億七九七五万二四六六円になる。右金額は、原告が被告に委託した資金運用枠の約二億円に匹敵する額である。
このことからも、被告が過当な回転売買をしていたことは明らかである。
(六) 原告の損害
(1) 第一次請求(債務不履行)
取引損失額及び被告の売買益が、被告の債務不履行と因果関係のある損害である。
本件における取引損失額は、原・被告間の本件ワラント取引における買付時の受渡金額合計(一億九八三〇万九七九七円)から原告が全ワラント取引によって得た利益を控除した額となる。具体的には、一億二二三四万七〇四一円である。
また、本件における被告の売買益は一億七九七五万二四六六円であるから、取引損失額との合計は三億〇二〇九万九五〇七円となる。
したがって、原告は、被告に対し、右金額の一部である二億円及び右金額の支払いを請求した日の翌日である平成六年二月一七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(2) 第二次請求(不法行為)
不法行為と因果関係のある損害は、取引損失額(一億二二三四万七〇四一円)に弁護士費用(一一一九万円)を加算した額であり、一億三三五三万七〇四一円である。
したがって、原告は、被告に対し、一億三三五三万七〇四一円及び訴状送達の日の翌日である平成四年八月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(七) 被告の責任
被告は、被用者高橋の事業執行についての違法行為により原告に右損害を与えたものであるから、前記各損害について債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づく賠償責任を負う。
(八) 過失相殺について
本件において被告の責任を認めた場合に、賠償すべき損害の額を定めるにあたって過失相殺をすることは以下の理由から相当ではない。
すなわち、一般に取引被害における欺瞞的勧誘方法(不実告知、説明不足)は、勧誘者に対する信頼を利用して顧客の落ち度を構造的に取り込むものであるから、顧客の落ち度はつきものである。したがって、被害者である顧客の落ち度それ自体を勧誘者の違法性と切り離して独立に評価すべきではない。商品の危険性について説明がなされなかった場合に、それによって引き起こされた落ち度、例えばワラントの仕組み、危険性について十分調査しなかったなどの顧客の落ち度はいわば「仕組まれた落ち度」というべきだからである。
以上により、ワラントの危険性等について調査しなかったことをもって落ち度があったとは到底いえず、過失相殺の対象とすべきではない。
2 被告の主張
(一) 本件取引勧誘の経過
(1) 原・被告間の有価証券取引においては、中村及び高橋が栗栖に対し勧誘その他投資の相談を行い、栗栖は、自らの権限の範囲内で取引を決定し、また必要に応じて、原告代表者の了解を得ながら取引を継続していた。
そして、原告は、昭和六二年六月一九日、大和ハウスワラントを購入し、これにより原告と被告との間のワラント取引が始まったが、右取引開始にあたり、高橋は、原告を訪問し、栗栖に対して、ワラントの商品内容について、①ワラントとは新株引受権証券のことであり、社債部分とワラント部分からなる新株引受権付社債(ワラント債)が発行された後、ワラント部分だけが分離されて、単独に取引の対象となるものであること、②ワラントは新株引受権証券であるから、一定の金額(権利行使価格)を支払って新株引受権を行使すれば、発行会社の株式を取得することができること、③その権利行使には期間の定めがあり、期間が経過すると権利がなくなり投資金額が零になること、④ワラントの価格はプレミアムという期待値が加わった形で形成されること、⑤ワラント価格は当該株価の変動に連動すると共に、株価の値動き以上に変動すること(ハイリスク・ハイリターン)、⑥外貨建(ドル建て)である以上、為替変動のリスクがあること、⑦転換社債は社債をそのまま転換して株式にできるが、ワラントは行使価格を支払って権利を行使しなければならない点において転換社債と異なること、⑧ワラントは店頭取引で被告との間の売買であること、⑨ワラントを取得した場合の処分方法としては、権利行使期間内にワラントをそのまま売却する方法、新株引受権を行使して株式を取得する方法、権利を消滅させて損失をワラントの購入金額の範囲内に限定する方法の三つがあることを説明した。その際、高橋は、右のようなワラントの性質を株式及び転換社債と比較しながら紙に書いて説明した。
さらに、高橋は栗栖に対し、当時の株式の相場環境を説明し、大和ハウスワラントの購入を勧めた。
これに対し、栗栖は、右説明を聞いて、ワラントの商品性を十分に理解した上で右ワラントを購入した。
(2) 原告は、大和ハウスワラントの購入に続き、同年一二月八日に、ケンウッドのワラントを四〇ワラント(七一〇万四六五〇円)購入している(計算書⑪)。高橋はこのとき、被告が同年八月に作成し同年九月から使用を開始した「ワラント取引説明書」を栗栖に交付し、重ねてワラントの商品内容について説明した。
(二) ワラントについて
ワラントは、他の商品に比べてリスクのある商品ではあるが、他面、投資家にとっては、株式投資に比較して少額の資金で、より高い収益が期待できること、損失が投資額に限定されることなどの利点が認められるものであって、原告の主張は、危険性のみを過度に強調するものにすぎない。
(三) 適合性の原則違反について
原告は、被告との証券取引を行う以前に国際證券及び日興証券との取引の経験があり投資経験は十分有しており、また、被告との証券取引において当初から高額の投資を行う(中期国債ファンドは一億円で購入―計算書①)など積極的な投資姿勢をとっていることからすれば、高橋が原告に対しワラントを勧誘したことは、適合性の原則に違反しないというべきである。
(四) 説明義務違反について
投資家は、自己責任の原則のもと、自らの判断により、自らの資金で、各種投資商品に対して投資をするのであって、その判断の前提として、その投資対象の商品について、その商品の内容や特性その他必要と考える事項の調査をすべき責任ないし注意義務は投資家自身にある。投資家は将来転売等を行うことによって利益を得ることを目的として投資を行うのであるが、投資する以上、大なり小なりリスクが伴い、あるいは投資によって期待される利益にも大小があるのは当然であって、それらの諸事情を勘案していかなる商品にいかなる投資をするかを判断、決定するのは、投資によって損益の帰属する投資家自身である。
証券会社は、投資家の注文に基づき、売買注文の執行をし、あるいは店頭登録商品については売買に応じる立場にあるにすぎず、投資家に対して、投資商品の内容等について説明すべき法律上の義務は負担していない。もちろん証券会社としては、売買の注文を受けるにあたって、投資家に対して、各種投資商品の内容や特性その他様々な投資情報を提供するが、これらは投資家に対するサービスとして行っているものであって、法律上の義務の履行として行っているわけではない。
したがって、投資対象商品についての調査義務は、投資判断をする投資家自身にあるのであって、証券会社に一般的に説明義務があるわけではない。
また、仮に証券会社に説明義務が認められるとしても、本件において高橋は、原告に対して十分な説明をしているのであるから、被告には説明義務違反の事実はない。
(五) 過当回転売買について
そもそも証券取引は、投資家自らの責任と判断において行うべきものであるが、株価の変動は極めて複雑な要因に基づくものであり、その時々の社会的・経済的情勢によって影響を受けることはもちろん、当該銘柄企業の業績及び将来性や証券市場における投資家の動き等によっても複雑に変動するものであって、株価の動きを的確に予測することは極めて困難であるといわざるを得ない。したがって、どのような投資方針がもっとも適切で合理的であるかを、客観的に決定することは殆ど不可能であるといっても過言ではない。
このような株式投資の本質からすれば、個々の証券取引の内容や性格を吟味することなく、もっぱら取引の回数のみを基準として、取引が当該投資家にとって過当なものであるか否かを判断することはできない。
被告の担当者の勧誘が違法であると評価されるためには、原告の担当者である栗栖が個別の勧誘に対して、正常な判断を行うことができないような勧誘行為が被告担当者によってなされることが必要である。
しかるに、本件においてそのような事情は一切なく、本件取引が原告にとって過当な取引であったということはできない。
第三 当裁判所の判断
一 本件取引の経過について
証拠(甲二四、二五、乙五ないし七、証人栗栖義輝、同高橋正利)及び前記争いのない事実によれば、次の事実が認められる。
1 ワラント以外の取引
(一) 原告は、被告との取引を行う以前、日興証券及び国際證券との間の証券取引があるが、右取引においては、日興証券との間で転換社債(一〇〇万円)を、国際證券との間で株式(イズミヤ五〇〇〇株)を各一回購入していただけであったが(甲二四、二五)、昭和六〇年前後の投資ブームの影響もあり、社内で証券投資を試みようとの声があり、受取手形を割り引きして得た資金をもって、一億円から二億円の限度で行うことになり、経理部長の栗栖がその担当者となって、被告との取引を始めることになった。
(二) 栗栖自身は、証券投資の経験はなく、被告が日本有数の証券会社であることを信頼し、当時の被告の担当者であった中村に対して、右のような投資資金の枠及びその出所を説明し、手形割引率以上の利益をあげることを期待している旨を告げて、取引を開始した。
(三) 昭和六〇年一月二九日、最初の取引で原告は、日本パーカライジングの第一回転換社債及び富士通の第三回転換社債をそれぞれ一〇〇万円で買い付け、翌三〇日には中期国債ファンドを一億円で買い付け、以後、原告は、計算書のとおり、被告を通じて多数回の有価証券取引を行うようになった。
(四) そして、本件ワラント取引以前の取引において、原告は、昭和六〇年二月にレインボーファンドを一億円(計算書①)で購入したほか、同年三月に三井建設株式を同日に合計六五〇〇万円余(計算書②)、同年四月に同和鉱業株式を七四〇〇万円余(計算書③)、翌六一年五月には東京瓦斯株式を合計で一億一八〇〇万円余(計算書⑦)購入するなど、一銘柄で三〇〇〇万円を越す大口の取引も二〇回近く行っていた。
(五) 原・被告間の有価証券取引において、栗栖は、自ら個人的に証券取引の経験がないことや被告が日本でも有数の証券会社であることなどから、中村の勧誘に信頼を置いており、銘柄や数量等は、概ね中村の推奨で、栗栖が「損が出ないこと」を確認したうえで決定していた。
昭和六〇年四月ころ、中村は、栗栖に対し、信用取引を勧め、栗栖は、危険性の高い信用取引を好まなかったので、右勧誘に対しては消極的だったが、中村から説得されてこれに応じることにし、原告は、同年四月九日、同和鉱業について信用取引(買い三〇〇〇株)をし(計算書②③)、同月一八日と一九日に売りにより手仕舞いし、一八八万八八五三円の利益をあげたが(計算書③)、栗栖は、それ以上に信用取引をすることは許さず、原・被告間の信用取引はこの一回のみに終わった。
(六) その後も原・被告間で証券取引は継続され、原告は、多数の取引で利益を得てはいたが、同和鉱業など株価の思わしくないものは含み損を抱えながら保有しており、昭和六一年五月ころには投資予定の資金以上の買付け残があり、それ以上の投資資金もなかったので、保有している株価の回復を待つことにし、原告と被告との間の証券取引は一時中断していたが、同年一一月、中村が転勤になり、高橋が原告の担当者となった。
(七) 高橋は、中村から、原告は京都で呉服商を営む老舗の会社であり、金融取引に関しては株式などを数千万単位で売買しているなどいわゆる財テクに積極的な会社であるとの引き継ぎを受けた。
高橋は、引継ぎ後に栗栖と会った際、原告が当時所有していた株式(国際航業一万株、同和鉱業一四万五〇〇〇株、トキコ五万五〇〇〇株、三和銀行三万株、ファナック七八〇〇株―計算書②〜⑥)に相当の評価損が生じていたので、右評価損の処理についての話をし、他方、栗栖は高橋に対し、原告の投資資金が手形を割り引いて得た資金であること、原告としては証券取引にあたって割引率以上の収益を期待していることを話した。その結果、評価損の出ていた株式の多くを同年一二月中に損切りし、その他の株式もその後順次売却し、原告は、約三〇〇〇万円の損失を被った。
(八) 高橋は、東京瓦斯、新日本製鉄、大成建設、三菱地所、NTT等の株式や転換社債等を勧め、昭和六二年六月ころまでに中村担当時代の損を相当回復させた(計算書⑦〜⑨)。
2 ワラント取引
(一) 昭和六二年六月、高橋は、当時株式市場が上昇基調であったこと、ワラントが出回り初めたころであったことなどから、栗栖に対し、ワラントを購入することを勧めることにし、先ず、発行直後であり、当時住宅産業で株価の上昇が期待されていた大和ハウスワラント(行使期間平成四年六月四日)を、直前の取引(テルモ、東京製鐵、川崎製鉄の各有価証券の売却)によって得た利益(合計二四〇万一〇五四円―計算書⑨)で購入することを勧め、栗栖は、高橋の勧誘に応じて、同年六月一九日、大和ハウスワラントを一〇ワラント、二四〇万四〇五〇円で購入した(計算書⑨・一覧表①)。
(二) その後しばらくは株式や転換社債等の取引が続けられていたが、昭和六二年一〇月中旬、株価が大暴落し(いわゆるブラックマンデー)、原告所有の有価証券に相当の売却損が生じた。高橋は、右評価損を回復し資金効率を高めるため、栗栖に対し、再度ワラントの購入を勧め、購入資金としては佐藤工業の株式の売却代金を使用することを提案したところ、栗栖はこれに応じ、同年一二月八日、ケンウッドワラントを四〇ワラント、七一〇万四六五〇円で購入したのを初めとして、昭和六二年と翌六三年に一九銘柄のワラントを購入した。これは、この間の株式等の取引の三分の一を越えるものである。そして、これらのワラントについては、極めて短期間に売付けられたものもあり、最も長く保有したものでも一年は越えず、全て利益を生じている(計算書⑪〜⑮)。
(三) 平成元年になると、株式市場の相場が上昇傾向になったので、高橋は、投資効率の高い商品ということでワラントの購入を中心に勧誘するようになり、その結果、平成元年以降は、原・被告間の取引はワラントが大部分を占めるようになった。すなわち、平成元年中に原告、被告間で買付、売付のいずれかがされた取引は全部で一六六回であるところ、右期間中のワラント取引(買付、売付のいずれかがされたもの)は一五五回であり、全取引の約九三パーセントに及ぶ(計算書⑮〜)(これを平成元年中に決済がされた取引とすると、全体が一四二回、ワラント取引が一三五回であり、約九五パーセントに及ぶ)。そして、平成元年のワラント取引には、本件取引の多くが含まれており(一覧表②〜⑬)、ほとんどが権利行使期間を経過して投資資金の金額を失うことになるが、それ以外はほとんどが同年中に売却され、しかも大半が利益を生じている。
(四) 平成二年以降は、高橋は、ワラントの勧誘を手控えるようになり、平成二年七月までに一三回の買付(計算書〜)がなされたに止まった(なお、これ以外のワラント取引は、高橋が転勤した後の平成二年一二月と平成三年四月に各一回の買付が行われただけである)。
平成二年九月には株式市場の下落に伴いワラント市場も冷え込み、当時原告所有のワラントですでに評価損が生じているものがあったので、高橋は、対応策として権利行使や処分を考え、栗栖にも案内した。しかし、権利行使をすると新たな資金が必要になるので、栗栖としては権利行使はしないという方針であった。そして、その後は、原告と被告との取引はほとんどなくなり、平成四年八月以降取引は中止された。
(五) ワラント取引中、本件取引分の経過は、一覧表記載のとおりであり、大半が権利行使期限を経過して消滅するに至り、その損失額は、一億九八三〇万九七九七円である。
二 ワラントの商品性について
証拠(甲一、四ないし一一、一七、一八、二二、二六、二七の1ないし6、二八、三〇、三一)によれば、次の各事実が認められる。
1 ワラントの性質
ワラントは、発行会社の株式を購入することができる権利であり、その権利を行使して株式を取得するための期間と価格が当初から定められているものであることから、次のような性質を有している。
(一) ワラントは期限付きの有価証券であり、権利行使期間が終了すると、その価値がなくなる。したがって、ワラント購入後、発行会社の株価が予想どおりに上昇せず、行使価格を上回らないときは、新株引受権を行使して利益を得る機会を失うことになる(もっとも、その場合でもその損失は、当該ワラントの買付代金に限定される)(甲一・三六頁、甲三一・二頁)。
そのため、ワラントを購入した場合は、所定の権利行使期間内に、①ワラントをそのまま売却するか、②新株引受権を行使してその発行会社の株式を引き受けるか(この場合、別途、新株式の買付代金の追加払い込みが必要となる)の選択が必要となり、右選択を行わないまま、権利行使期間の終了を迎えると、ワラントは無価値(紙屑同然)となり、結局ワラント取得に要した投資資金を失うことになる(甲三一・二頁)。
(二) ワラントの価格は、権利行使価格と株価との差額部分である理論価格(パリティ)にプレミアムが加算されたものであり、右プレミアムはその時々の株式市場に対する上昇期待度やワラントの人気度、需給関係などに応じて株価の変動に関わりなく変動するものである(甲一・五五頁)。
そのため、一般にその価格は、株価の影響を受け(必ずしも連動しない場合もある、甲一・一三〇頁等)、株価の上下に対し何倍もの変動をするといわれている(ギアリング効果)(甲一・七三頁)。したがって、少額の投資で大幅な利益を得ることが出来る場合もあれば、逆に損失を被ることもある(ハイリスク・ハイリターン)(甲一・二二頁)。
(三) 外国新株引受権証券(外貨建ワラント)を売買する場合は、為替変動による影響を受けることがある。もっとも、理論的には、円高になるとワラントの理論価格(パリティ)が上がる仕組みになっているため、円高に伴う円ベースでの資産評価の目減りはある程度相殺され、逆に円安の場合、ワラント自体の値段は、理論的には下がる仕組みになっているため、円安に伴う円ベースでの資産価値の増加もある程度相殺されるので、為替の変動が直接資産価値に影響する外貨建の外国株式への投資に比べて、為替変動による影響は少ないといえる(甲一・四六頁)。
2 ワラント取引の危険性
(一) 原告は、前記のとおりワラント取引の危険性として、(1)価格変動の大きさ、(2)権利行使期間の存在、(3)為替リスクの存在、(4)価格形成の不透明性、(5)価格情報の不足を挙げるので、勧誘の違法性の有無等を判断する前提として、以下その存否や程度について順次検討する。
(1) 価格変動の大きさ
右ワラントの性質で述べたとおり、ワラントは、株式に比して数倍もの値動きをしうる商品であり、その価格下落の危険性も相当大きく、この点は原告の指摘するとおりである。
(2) 権利行使期間の存在
右ワラントの性質で述べたとおり、ワラントは、権利行使期間を過ぎれば無価値となるから、この点も原告の指摘するとおりである。
(3) 為替リスク
右ワラントの性質で述べたとおり、為替リスクが存在したとしても、それのみで大きな価格下落の原因となるとは考えられない。
(4) 価格形成の不透明性
株式や転換社債の場合は、証券会社の店頭に行けば、株価ボードによって刻々と変わる値段の動きが分かり、また、証券取引所での集中取引のため、同時刻ではいずれの証券会社で売買しても同一値段である。
これに対し、外貨建ワラントの場合は、株価の動きを基にして各証券会社がマーケットメーカーとして値段を決め、また、証券会社と投資家との相対取引であるので、マーケットメーカーによって売り買いの値段が異なることになる(甲一・五三頁、一〇九頁)。
しかし、昭和六一年一月に外貨建新株引受権付社債(外貨建ワラント)の国内環流が可能となって以来(甲四・一三六頁、甲五・二二頁(2))、外貨建ワラントの流通市場が急速に拡大し、個人投資家の市場参加が増加することに伴い、昭和六三年ころから大蔵省と証券業協会が中心となり、ワラントの流通市場での価格の透明度を高めようという動きが出始めた。
そして、平成元年二月以降、業者間取引市場が確立され、同年四月一九日の日本証券業協会理事会決議(「外国新株引受権証券の店頭気配発表及び投資勧誘について」)により同年五月一日からは右市場で形成された流通性の高い銘柄の価格情報を日本証券業協会を通じ電子情報通信機関及び新聞等から随時投資者に提供すること、勧誘の際は顧客に説明書を交付し、顧客から「外国新株引受権証券の取引に関する確認書」を徴求することとされた(甲一・一一一頁、甲四・一三六頁、甲五・二二頁)。
さらに平成二年七月一八日の日本証券業協会理事会決議(「外国新株引受権証券の売買、気配の発表等について」)により同年九月二五日から、業者間取引は原則として日本相互証券に集中させ、取引時間中いつでもリアルタイムで業者間取引気配の中値をクィック、ロイター等を通して一般に公表すること、店頭での顧客との取引については、業者間取引における取引価格等を基準に一定の値幅制限を設ける(一〇〇ワラント以下の場合上下0.75ポイント、一〇〇ワラントを超える場合上下1.00ポイント)こととされた(甲一・一一三頁、甲四・一三六頁、甲六・二四八頁、甲七・二四頁、甲一〇、一一、甲二二・一八八頁以降)。
また、右流通市場の整備と合わせ、外貨建ワラントの国内売出しについては、有価証券届出書の提出等が制度化された(甲六・二四八頁、甲九、一七、一八)。
右の各措置によってワラント価格の透明性は一気に高まることになり、ワラント価格形成の問題はほぼ解決されている。
もっとも、本件において、原告と被告とのワラント取引は、昭和六二年六月から開始されており、右開始時にはワラントの価格形成が不透明な時期であったことは、原告の指摘のとおりである。
(5) 価格情報の不足
外貨建ワラントが国内に持ち込まれるようになった当初は、市場形成も不十分で、店頭取引のため同じ銘柄にもかかわらず証券会社によって価格が異なったり、正確な出来高がつかみにくい等、投資家への価格情報が不足していた状況があったが(甲一・一〇九頁)、平成元年以降、ワラント価格の透明度を高めるために様々な情報提供がされるようになったことは右に見たとおりである。
したがって、価格情報の不足という問題は現在は解決されているといえるが、原告がワラント取引を開始した昭和六二年当時は、価格情報の不足という問題があったことは、原告の指摘のとおりである(もっとも、ワラントの価格の動向は概ね株価に連動するのである程度推測することができ、新聞などで公表されていない時点においてもそれを正確に知ろうと思えば証券会社に問い合わせるなどしてできる状況にはあった)。
(二) 以上のことからすれば、原・被告間においてワラント取引が開始された昭和六二年当時、ワラント取引においては、①ワラントが株式に比して値動きの激しい商品であること、②権利行使期間があり、右期間を過ぎると無価値(紙屑同然)となること、③価格形成の不透明性、④価格情報の不足という危険性があったというべきである。そして、右四点のうち、現在においてもなお解決されていないことから、①及び②の危険性はより重要なものである。
二 証券取引の投資勧誘における証券会社の注意義務について
1 投資家が証券取引その他の取引を行うのはそのリスクの大小を問わず本来自由であり、他方、一般に証券会社等が投資家に提供する情報・助言等は、経済情勢や政治状況等の不確定な要素を含む将来の見通しに依拠せざるを得ないのが実情であるから、投資家としては取引を行う以上、投資家自身において、自ら収集した情報に併せ、提供された情報・助言等を参考にして、当該取引の特質や危険性の有無・程度、当該危険に耐えうる財産的基礎の有無等を判断し、その適否を決すべきものである(自己責任の原則)。そして、このことは、本件のようなワラント取引においても妥当するものである。
2 しかしながら、このように証券取引が投資家の自己責任で行なわれるべきものであるということは、証券会社の行う投資勧誘がいかなるものであってもよいことを意味するものではなく、証券会社が、証券市場を取り巻く政治、経済情勢はもちろん、証券発行会社の業績、財務状況等について高度の専門的知識、豊富な経験、情報等を有する一方で、多数の一般投資家が証券取引の専門家としての証券会社の推奨、助言等を信頼して証券市場に参入している状況の下においては、このような投資家の信頼が十分に保護されなければならないものというべきである。
3(一) 証券取引法五〇条一項及び証券会社の健全性の準則等に関する省令一条一号は、証券会社又はその役員若しくは使用人による断定的判断の提供、虚偽の表示または重要な事項につき誤解を生ぜしめる表示等を禁止し、大蔵省証券局長通達「投資者本位の営業姿勢の徹底について」(昭和四九年一二月二日蔵証第二二一一号)及び日本証券業協会の規則や通達(公正慣習規則一号ないし九号等)なども、証券会社の投資勧誘に際しては、投資者の判断に資するため有価証券の性格、発行会社の内容等に関する客観的かつ正確な情報を投資者に提供すること(説明義務)、投資者の意向、投資経験及び資力等に最も適合した投資が行われることに十分配慮すること(適合性の原則)、特に証券投資に関する知識、経験が不十分な投資者及び資力の乏しい投資者に対する投資勧誘についてはより一層慎重を期すること、顧客カード等により知り得た投資資金の額その他の事項に照らし、過当な数量の有価証券の売買その他の勧誘を行うことのないようにすること(過当売買の禁止)を要請している。
(二) もっとも、これらの法令、通達、協会規則等は、公法上の取締法規又は営業準則としての性質を有するに過ぎないため、証券会社の顧客に対する投資勧誘が、これらの定めに違反したからといって、直ちに私法上も違法となるわけではないが、前記のような投資家保護の要請とこれを具体化した右各規定の趣旨やその制定経過からすれば、証券会社は、投資家に投資商品を勧誘する場合には、投資家の証券会社に対する信頼を保護すべく相当の配慮が要請されるべきである。
したがって、証券会社及びその使用人は、商品内容が複雑でかつ取引に伴う危険性が高い投資商品を一般投資家に勧誘する場合には、当該商品の周知度が高い場合や勧誘を受ける投資家が当該取引に精通している場合を除き、信義則上、投資家の意思決定にあたって認識することが不可欠な当該商品の概要及び当該取引に伴う危険性について説明する義務を負い、また適合性原則をふまえて投資家の意向やその財産状態、投資経験に照らして明らかに過大な危険を伴うと考えられる取引を積極的に勧誘することを回避すべき注意義務を負うことがあるというべきである。
そして、右義務違反があってはじめて勧誘は社会的相当性を逸脱し、私法上も違法なものとして債務不履行又は不法行為を構成しうるものと解すべきである。
(三) ワラントは、前記のとおりハイリスク・ハイリターンの性質を有し、その内容も複雑な投資商品であるところ、証券会社が投資家に対してワラント投資を勧誘するにあたっては、右に証券一般について述べたと同様、断定的判断の提供による勧誘などを控え、投資の適合性の如何を考慮するとともに、投資家側に勧誘対象であるワラントの知識が十分あるなど特段の事情でもない限り、ワラントの特質や危険性を説明すべき義務を負っていることはいうまでもない。
そして、右説明にあたっては、投資の有利性等に比重を置いた説明の中で形式的ないし抽象的にワラントの概要及び当該取引に伴う危険性について触れるだけでは足りず、投資家が投資の適否について的確な判断ができるだけの情報が得られるように、あるいは投資家自らかかる情報を入手する必要を知ることができるようにこれを行うべきであり、相当の資力や社会経験を有する投資家に対しても、少なくともワラントの特質や危険性に関する主要な要素については、これを十分に理解できるようにすべきである。
ところで、前記によれば、ワラントの危険性として、①ワラントの価格は株式に比べて値動きが激しいこと及び②権利行使期間を経過すると権利が消滅して無価値(紙屑同然)になることの二点が特に重要であるから、少なくともその説明を欠かすことはできず、投資家が投資自体についてはもちろん投資後の対応の仕方についても的確な判断ができるように、これを具体的に理解できる程度に説明すべきである。
三 本件勧誘の各義務違反について
以上のような観点に立って、前記認定の事実関係に基づいて、高橋の栗栖に対する本件ワラント勧誘の各義務違反の有無について検討する。
1 適合性原則違反について
先に認定したように、被告との取引を開始する以前の原告の投資経験は殆ど無いに等しいものであり、被告との取引開始後も本件ワラント取引を開始する以前は、比較的安全なものと見られる投資信託や転換社債の他株式の現物取引を行うに止まり、信用取引は利益を出しながら一回行ったに止めていること、またその投資目的も手形割引率以上の利益を得ることにあったことからすれば、高橋が原告に対してハイリスク・ハイリターンな商品であるワラントを勧誘することは、投資家の意向という面からは不相当とも思われる。
しかし、①原告は、被告との従前の取引において、比較的安全な商品を選んでいたとはいえ一銘柄につき一億円以上もの投資をしたこともあり、より大きな利益を求める意向もあったと窺われること、②原告の投資資金額は一億円ないし二億円であり、原告は相当程度のリスクに耐え得るだけの資産状態にあったといえること、③原告が被告とのワラント取引において投資した額は、一銘柄について約三〇〇〇万円以内、一日にして約五〇〇〇万円以内であり、右投資資金額に比べて必ずしも過大な取引をしているとはいえないこと、④栗栖は従前の取引においても被告の従業員の勧誘に概ね好意的ではあるが、信用取引については自ら好まないことを理由に一回に止めるなど投資対象について自己の意思を貫徹することができていたのであるから、ワラントについても十分な説明を受けたならば投資をするか否かの判断はできたと思われることなどからすれば、ワラントの危険性を考慮したとしても、高橋がした本件ワラント買付の勧誘が、原告の財産状態、投資経験等に照らして明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものとまではいえず、それのみで違法であるとまでは評価することはできない。
2 説明義務違反について
(一) 原告と被告との間で、本件ワラント取引が始まった昭和六二年六月当時は、外貨建ワラントの環流が解禁となった約一年半後であり、店頭気配値の公表が行われていないなど価格情報が不足し、価格形成の過程も不明確であり、ワラント取引の周知性が高いとはいえない状況であった。
また、栗栖は、被告との間で従前約二年半にわたり有価証券取引の経験があるとはいえ、比較的安全な商品を投資対象としていたので、高橋による勧誘当時のワラントについての知識は全く有しておらず(証人栗栖)、他方、高橋は、栗栖から原告の投資目的が投資資金の取得原因たる手形割引の割引以上の利益を期待するものであることを聞いて認識していた。
したがって、高橋としては、栗栖に対しワラントの買付を勧誘するに際しては、ワラントの性質ないし危険性に関する重要な要素についての情報、すなわち、少なくとも、①ワラントはこれまで原告が取り引きしてきた株式等に比べて値動きが激しいものであること、及び②権利行使期間が定められており、右期間を経過すると権利が消滅し、無価値(紙屑同然)となるということを、素人である栗栖にも具体的に理解できる程度に説明すべき義務があったというべきである。
(二) ところで、昭和六二年六月にワラント取引を勧誘した際の説明について、高橋は、当時被告において後記の「ワラント取引説明書」を作成しておらず、パンフレットもなかったので、口頭で栗栖に対し、ワラントについて以下のような説明をしたと述べている。
(1) ワラントとは新株引受権証券であり、ワラント債という債券で発行された後社債部分を取り除いてワラントの権利部分だけを取引の対象とするものであること
(2) ワラントの価格は株価と権利行使価格との差額を指すことになるが、実際は市場の取引で、市場の値上がり期待値であるプレミアムが付加されること
(3) ワラントの価格は基本的に株価の影響を受けること
(4) ワラントがハイリスク・ハイリターンの商品であること
(5) 外貨建商品であること
(6) ワラントは、新株を取得するための権利であって株券ではないので、期日が来ると権利がなくなること
(7) ワラント取引が被告との店頭取引であること
(8) ワラントの処分の仕方としては、そのまま売却する方法、権利行使価格を支払うことによって新株を引き受ける方法、権利放棄することによって損失を限定する方法の三種類があること
(三) これに対し、栗栖は、高橋から、ワラントが新株引受権であり、外貨建てであることについては、説明を受け、為替の影響を受けることが心配になり、高橋に為替の影響の有無について尋ね、一応の説明は受けたが、結論的に影響がないという程度しかわからなかったと述べている。
そして、為替差損について栗栖から質問があったことは、高橋も認め、それに対しては、ワラントの理論価格(パリティ)は為替が円高になれば上昇し円高による為替差損と相殺されるが、それと取引の値段とは違い、取引価格にはその他に市場の期待値がプレミアムとして付加されることなどを説明したと述べている。
また、栗栖は、パリティ、プレミアムなど、ワラントの商品性格についての説明はあったかもしれないが、よく理解できなかった、ハイリスク・ハイリターンとか権利行使期間が過ぎるとワラントが無価値(紙屑同然)になるということは全く聞いていないと述べている。
(四) しかし、原告と被告との間の証券取引においては、以下のような事実が認められる。
(1) 取引開始直後の昭和六〇年二月一九日、取引内容の報告について月次報告書による報告制度を採用する旨の覚書が作成されており(乙九)、本件ワラント取引においても、右覚書に従い、まず約定日の翌日に被告から原告に対し取引報告書(形式は乙八のとおりであることに争いがない)が送付され、その後売買の明細が記載された計算書(形式は乙一六のとおり)及び月次報告書(乙一〇)が送付され、取引内容の報告がなされていた。
(2) 被告から取引報告書及び月次報告書が送付されると、原告では経理部の担当者が各取引の損益を計算しており(証人栗栖)、原告から被告に対して、右月次報告書に記載された証券残高等の内容に相違ない旨が記載された回答書(乙一一)が送付されており(証人栗栖、同高橋)、取引報告書には、「償還日欄にはワラント行使期限が表示されています。」旨が枠で囲まれて記載されており、月次報告書には、ワラントの場合は権利行使期限の日時の記載がされている。
(3) また、高橋は、昭和六二年九月に被告において作成していた「ワラント取引説明書」(乙三)を同年一二月八日にケンウッドワラントを勧めた折りに栗栖に渡し、栗栖から同日付で右説明書の内容を確認した旨記載された「ワラント取引に関する確認書」(乙四)に原告の記名印が押捺されたものを受領している(栗栖は、右説明書の受領自体を否定しているが、右「確認書」はワラント取引説明書の末尾に綴られて切取る形式になっており、原告の記名印が押捺されていること、高橋がことさら本体の説明書を渡さずに確認書だけ徴求しなければならない事情も存しないこと等からすれば、栗栖の右供述は採用できない)。
(4) そして、右「ワラント取引説明書」は、全一一頁にわたり「ワラント債とは」、「外貨建ワラント」、「ワラントの行使価格とその価値及び理論価格」、「ワラントの流通価格と株価の魅力」、「ワラント投資の魅力」等の全七項目について説明が記載されているものであり、「ワラント債とは」という項目には、ワラントが一定期間(行使期間)内に一定価格(行使価格)で一定量(一ワラント当たりの払込額 行使価格)の新株式を購入(引受け)できる権利を有する証券であることが記載され、さらに別に設けられた「ことば」という用語欄に、行使期間とは新株式を購入(引受け)できる期間のことで発行時に決められており、この期間中にワラントを行使しないと、ワラントの経済的価値はなくなると記載されている。
(5) 被告は、平成二年二月から、外貨建ワラントを購入した顧客に対し、時価を案内するため三か月毎に「外貨建ワラント時価評価のお知らせ」を送付することとなり、原告に対しても右書面を郵送し、原告からは右書面の内容を確認した旨の確認書を受領しているが(乙一四、証人高橋)、右「お知らせ」は、顧客用、被告の営業担当者用、被告の事務の保管用の三枚綴りとなっており(乙二〇の1ないし3)、顧客用の用紙の裏面には、枠内に「ワラント(新株引受権証券)取引についてのご案内」があり、「(3)ワラントの価格の変動について ワラントの価格の変動は理論上株価に連動しますが、その変動率は株式に比べて大きくなる傾向があります。したがって、株式を売買するよりも少額の資金で、株式を売買した場合と同様の投資効果を上げることも可能ですが、反面値下がりも急激で、場合によっては投資金額の全額を失うこともあります。(4)売却または権利行使の選択について ワラントには権利行使の期間が設けられており、権利行使期間が終了したときにはその価値を失います。したがって、ワラントを買付けた場合、定められた期間内にワラントのまま売却するか新株引受権を行使して新株式を購入(引受け)するかの選択が必要です。期間内に売却もしない、権利行使もしない場合ワラント買付代金全額を失うことになります。」との記載がある。
(五) 右のように被告ないし高橋は、ワラントがハイリスク・ハイリターンな商品であり、権利行使期間が定められていて、その期間を経過することによって無価値になることなどを記載した多くの書面を適宜栗栖に交付してきているのであって、このような対応からすれば、被告ないし高橋が、二年半にわたり相当多額の証券取引を継続してきた原告(高橋は、原告は被告にとっていわば最重要顧客であると述べている)に対し、右のような点を含むワラントの基本的な説明をことさらに秘匿すべき理由はないというべきである。そうだとすれば、高橋は、その説明文言が栗栖にも理解できる程度のものであったか否かはともかくとして、ワラントに関する右のような重要事項を含め、その基本的な性質等について一応の説明はしたと認めるのが相当である。
(六) しかしながら、他方、高橋の勧誘の結果、原・被告間の取引は、平成元年にはその殆どがワラント取引で占められる状況になっているが、原告は、受取手形を支払期日まで社内保留しないで手形割引により資金化し、それを投資の原資としており、そのために危険を回避しつつ手形割引料以上の利益を上げる程度の目標で投資を行なっており、中村から熱心な勧誘を受け、一度は信用取引もし、現実に短期間で利益(約一〇日で一八八万八八五三円―計算書②③)を上げながらも、信用取引は現物取引よりも危険度が高いので継続して行わせなかった栗栖の慎重な取引態度からみれば、ハイリターンである反面ハイリスクでもあり、権利行使期間を経過すれば無価値になるワラント取引を、その商品特性を熟知しながら全取引のほぼ九割を占めるほどに行ったというのは、余りにも不自然というべきであり、そのような危険な投資に邁進しなければならない状況があったとも認められない。
また、栗栖は、高橋からワラントを勧められたとき、為替差損について質問しているが、そのように慎重な栗栖が、高橋の説明により、ワラントがハイリスク・ハイリターンな特性をもち、一定期間経過後には無価値になるかもしれない商品であることを知ったのであれば、為替差損などよりもはるかに重要であり、かつ、それまでに購入していた商品と本質的に異なるこれらの点について質問もしないというのは容易に想定しにくい事態といわなければならない。
さらに、平成二年には原告所有のワラントですでに評価損の生じているもの及び行使期間が残り三年を切るものがあったこと、行使期間の短いワラントが投資対象となり難いことからすれば、栗栖がワラントに権利行使期間があることを熟知しながら、当時の高橋からの権利行使及び処分等の勧めに対し、権利行使をしないという判断をしたのみで、株式市場の下落から今後さらに原告所有ワラントの処分(売却)が困難になり損失が拡大するおそれがあることについての非難をしていないのもいささか不自然である。
その後、平成三年春ころ、栗栖は、NHKの番組を見て、ワラントが権利行使期間が経過すると無価値になり紙屑同然になるということを知り、原告の相談役及び原告代理人である弁護士などに相談をし、被告京都支店の高橋の後任者に苦情をいい、本訴提起に至ったものであることが認められる(証人栗栖)。
なお、右の平成三年春ころまでのワラント取引においても、権利行使期間中の売却によりいくらかの損を出したことはあるが、計算書から明らかなように、数万円から多くても一〇〇万円台程度の損がいくらか出ているだけで、巨大な損害を生じさせた本件取引分を放置した形で、ほとんどのワラントを利食いして処分してきていたのであり、その間に栗栖がワラントのハイリスク性を身を以て知る機会はなかったと思われる。
(七) 右のような事情にかんがみれば、高橋はワラントについてその商品特性や危険性についても一応の説明はしていたとはいうものの、栗栖において、高橋の説明、ことにワラントの危険性の側面について十分に理解していなかったということがうかがえるところ、栗栖に一般的な理解力が欠けていたような事情は見い出せないこと、中村の信用取引の勧誘を一度で断った栗栖が高橋のワラントの勧誘を断ることもなく受入れ、それまでの安全志向からほぼワラント一色の取引に切替えたことからすれば、高橋の説明自体がワラント取引の有利性等に比重が置かれ、その中で形式的抽象的にワラントの危険性について言及したに過ぎないものであり、栗栖に対し、ワラント投資の適否を判断させるにあたり必要な情報の提供を十分行ったとまではいいがたい内容であったと推認するのが相当である。
そのため、栗栖をして、従来取引していた株式や転換社債等に比してワラントがハイリターンではあるが危険性も大きいものであることや権利行使期間経過後は無価値となり、投資総額を失うことになることについて十分な理解を与えることができなかったというべきである。したがって、高橋が栗栖に対してしたワラントの説明には、先に述べた観点からして、説明義務違反の違法があったと判断される。
そして、高橋は、栗栖がワラント取引をするのは初めてであることを認識しており、かつ当時証券取引の専門家としてワラントに関する豊富な知識を有していたのであるから、ワラントが無価値になるという点について説明することは可能でありかつ容易であったはずであり、高橋には、右説明義務違反について過失もあったといわざるをえない。
3 過当回転売買について
原告は、原・被告間の取引は一任勘定取引であり、そのために原告の口座を支配する被告が自らの手数料収入を増大させるために、過当な回転売買をしたと主張する。
たしかに、原・被告間の取引において、栗栖が中村又は高橋の勧誘に対し損失が出ないことを確認するのみでこれに応じ、ほとんどの場合主導的に投資対象の判断を行っていなかったことは前記認定のとおりである。
しかし、①原告は経理部において被告との取引の損益を計算しており、実際に損失が生じたときは(レインボーファンドの場合等)中村又は高橋を呼んで非難していること(証人栗栖)、②栗栖は、中村からの信用取引の勧誘に応じ利益を出したにもかかわらず、信用取引を好まないことから一回にとどめ、以後高橋からの勧誘にも応じていないこと、③信用取引以外の取引についても高橋の勧誘に対し断ることもあったこと(証人高橋)などからすれば、栗栖は被告からの勧誘を鵜呑みにすることなく注意深く接していたといえ、一任勘定取引であったとは言い難い。また、ワラント取引については、平成元年に集中し、その取引回数が多く、ごく短期に売り買いがなされていることも多いことは先にも触れたところであり、計算書からも明らかではあるが、その大半は利益を確保しての処分であり、被告の利益のみを図るものともいいがたい。
したがって、原告と被告との取引において、被告が原告の口座を支配していたと認めることができず、本件取引が原告の主張する過当回転売買であったとは認められない。
四 賠償すべき損害額について
1 本件取引による損害
先に認定したところによれば、被告の被用者である高橋には、本件取引を勧誘するにあたって認められる説明義務を尽くさなかった違法があり、過失も認められるから、高橋の不法行為に対し、被告は使用者としての責任を免れないところ、本件取引自体は、高橋の違法な勧誘によるものとはいえ、有効に成立していると解するのが相当であるから、右不法行為によって原告に生じた損害は、本件取引の売買代金相当額である一億九八三〇万九七九七円から原告が被告とその他のワラント取引によって得た利益(計算書に基づき七五四九万五三六一円と認める)を控除した一億二二八一万四四三六円と認める。なお、原告は、債務不履行を理由として、原告と被告との間のワラント取引により被告が得た売買益も原告の損害であると主張するが、債務不履行の成否はともかく、右売買益をその損害とする主張は失当というべきである。
2 被告の寄与の程度
(一) 高橋側の事情
高橋による本件取引の勧誘は、栗栖と高橋との具体的関係の中において、重要事項の説明が不十分である点において過失による違法なものというべきではあるが、高橋がことさらに欺罔的な手段を用いたとか、断定的判断を提供したり誤導したりしたというわけではなく、また、高橋は口頭の説明に加えて、本件取引の早期の段階でワラント取引説明書を交付して原告が自ら検討する機会も与えていたことなどを考慮すれば、その違法性ないし過失の程度はさほど大きくはなかったものというべきである。
(二) 原告(栗栖)側の事情
これに対し、栗栖は、本件ワラントが外貨建であることから、為替変動の影響を心配して高橋に質問をしているが、それに対する高橋の説明が結論として為替変動による影響がないことを意味するものと解するや、その理由等について十分理解していないにもかかわらず、それ以上の説明は求めず、また、その他のワラントの性質についても詳細を知ろうともせず、本件取引を開始したのであって、そのこと自体に後に生じた損失との関係で原告側の落ち度が認められる。
また、栗栖は、本件取引の早期の段階で、高橋からワラント取引説明書を受領したのをはじめとして、その後も取引報告書、月次報告書等の書面の交付を受けており、これらの書面を見れば権利行使期間が存在すること及び権利行使期間経過後はワラントの価値がなくなることを認識し得たはずであるのに、特にこれらに注意を払うこともなく放置していたのであり、権利行使期間を過ぎるとワラントが無価値になることについての認識が遅れた一因となっているというべきである。
(三) 以上のような諸般の事情を総合すると、原告の前記損害のうち、被告の寄与による部分はその二割と認めるのが相当である。
なお、原告は、「仕組まれた落ち度」について過失相殺をすることは不当であると主張するところ、たしかに意図的になされた欺瞞的勧誘方法によって顧客に誤解を与えるなどした場合については、顧客側の不注意を咎めるのが相当でない場合もあるというべきである。しかし、勧誘者がことさらに欺瞞的な手段を用いたような場合でなく、相当の理解力をもつ顧客を相手に、一応の説明もし、資料も提供し、それらを子細に読めば理解できる状況を設定している以上、顧客が理解していることを期待したとしても、これをあながち責めることはできないのであり、それにもかかわらず必要な判断材料の獲得に欠けるところがあったとすれば、それによって生じた損害は、勧誘側と顧客側の具体的な関わりの中で、両者の落ち度によって生じたものとみるべきであり、その寄与の程度に応じた損害の公平な分担が図られてしかるべきであり、原告の右主張は、その限りで採用できない。
3 したがって、本件取引による損失のうち、被告が原告に対して損害賠償をなすべき金額は、二四五六万二八八七円とするのが相当であり、弁護士費用については、その一割をもって本件不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
五 結語
以上のとおり、原告の請求は二七〇一万九一七五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成四年八月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官井垣敏生 裁判官松本利幸 裁判官本田敦子)
別紙売買取引計算書<省略>
別紙本件ワラント取引一覧表<省略>